

風のむこうがわ|1967 初夏ーある日のスケッチー|ピキと少年

それからは、おやつの食べのこしや、ご飯や、おかずの残りといっしょに温かいスープを飲ませてあげました。そのスープは、お母さんに頼んで作ってもらったものです。
「ぼくは、身体を強くしたいから、栄養のあるスープをつくって欲しいの、今日からは、朝と晩かならず飲みますから」。
今まで、「食べなさい、飲みなさい」と言われても、しぶって、なかなか口に入れない少年でしたから、お母さんは、喜んだり、驚いたりしました。
ハエに温かいスープをのませたいために、少年もがまんして飲むのです。じっさい、肉のスープは、それほどでもありませんでしたが、魚とキャベツとニンジンを煮こんだときなどは、かなり勇気がいるのです。
ハエは、ますます元気になり、少年もうれしそうでした。

お正月に、学校の庭で模型ヒコーキ大会が開かれます。 少年も参加する予定でヒコーキを作っておりました。ヒコーキの胴体に使われたひのき棒が、少しだけ残っており、2つに切って合わせると長さ3センチ、幅2センチになります。
「ちょうどいいや」。少年は、接着ざいを使って、ていねいにはったのです。さて、何をつくるのでしょう。
ハエは、少年のしていることが気になりました。それ以上に、室内が暖かくなったことがうれしくて、天井に近いところを、ブーン、ブーンと飛びまわっていました。
少年は、つばさの残りのヒゴを四本、同じ長さに切り、芯棒をはり合わせたものにつけて脚にしました。
ちょうどその時、「ご飯よ」、お母さんに呼ばれたので、作業は中止となりました。
「食事に行くからね、待っているんだよ」。

部屋を出がけに、突然、思い出したように、「あっ、そうだ。お前の名前はなんて言うんだい」。天井にとまって、少年を見ているハエに尋ねました。
ハエが、何も言わないものですから、少年が、「名前がないと変だよ。ボクがつけて上げようか」。すると、その言葉がわかったのか、ぐうぜんなのか、ハエが羽根をふるわせ「ピキッ」とないたように少年には聴こえたのです。
「お前、ピキって言うのか。かわいい名前だね」。「それからね、ピキ、まだこれ作りかけだから、いじるんじゃないよ」。一寸兄さんぶって注意し、食事に行きました。
ピキは、しばらくじっとしていたのですが、待ちきれずとうとう作りかけのものに近づいて、その上にとまりました。その瞬間、「ガタッ」と音がして、4本のヒゴのうち1本がはずれてしまいました。まだよくのりが、かわいていなかったのです。ピキは困りました。少年がもどって来ないうちに、なんとかもとのように直しておこうと思いました。力一杯、もち上げようとしましたが、びくともしません。

ピキは、考えました。自分の体をひのき棒の下へ入れて、押し上げることにしました。成功です。ひのき棒が浮き上がりました。今度は、ヒゴをあしでたぐり寄せ、あしと手でうまくもち上げて、ひのき棒にのりがぬってある箇所へ、押し当てればもとどおりです。
ふいにドアーが開きました。少年が、夕飯をすませて戻ってきたのです。ピキは、羽根がしびれるくらいびっくりしました。そして、叱られるのをかくごして、そのまま、小さくなっていました。でも、少年は叱りません。叱るどころか、作りかけのものをおや指と人さし指でもち上げて、「ピキ、あぶないよ。だいじょうぶだったかい」。そう言うと、急いでまた熱心に作業を続けました。
ピキは、目頭が熱くなるのを感じました。そして、じっとしていられなくなり、思わず少年の肩にとまりました。
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