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ピキと少年

風のむこうがわ1967 初夏ーある日のスケッチーピキと少年  

 

D

カット5

それからは、おやつの食べのこしや、ご飯や、おかずの残りといっしょに温かいスープを飲ませてあげました。そのスープは、お母さんに頼んで作ってもらったものです。

「ぼくは、身体を強くしたいから、栄養のあるスープをつくって欲しいの、今日からは、朝と晩かならず飲みますから」。

今まで、「食べなさい、飲みなさい」と言われても、しぶって、なかなか口に入れない少年でしたから、お母さんは、喜んだり、驚いたりしました。

ハエに温かいスープをのませたいために、少年もがまんして飲むのです。じっさい、肉のスープは、それほどでもありませんでしたが、魚とキャベツとニンジンを煮こんだときなどは、かなり勇気がいるのです。

ハエは、ますます元気になり、少年もうれしそうでした。

カット6

 

E

お正月に、学校の庭で模型ヒコーキ大会が開かれます。  少年も参加する予定でヒコーキを作っておりました。ヒコーキの胴体に使われたひのき棒が、少しだけ残っており、2つに切って合わせると長さ3センチ、幅2センチになります。

「ちょうどいいや」。少年は、接着ざいを使って、ていねいにはったのです。さて、何をつくるのでしょう。

ハエは、少年のしていることが気になりました。それ以上に、室内が暖かくなったことがうれしくて、天井に近いところを、ブーン、ブーンと飛びまわっていました。

少年は、つばさの残りのヒゴを四本、同じ長さに切り、芯棒をはり合わせたものにつけて脚にしました。

ちょうどその時、「ご飯よ」、お母さんに呼ばれたので、作業は中止となりました。

「食事に行くからね、待っているんだよ」。

カット6

部屋を出がけに、突然、思い出したように、「あっ、そうだ。お前の名前はなんて言うんだい」。天井にとまって、少年を見ているハエに尋ねました。

ハエが、何も言わないものですから、少年が、「名前がないと変だよ。ボクがつけて上げようか」。すると、その言葉がわかったのか、ぐうぜんなのか、ハエが羽根をふるわせ「ピキッ」とないたように少年には聴こえたのです。

「お前、ピキって言うのか。かわいい名前だね」。「それからね、ピキ、まだこれ作りかけだから、いじるんじゃないよ」。一寸兄さんぶって注意し、食事に行きました。

 

F

ピキは、しばらくじっとしていたのですが、待ちきれずとうとう作りかけのものに近づいて、その上にとまりました。その瞬間、「ガタッ」と音がして、4本のヒゴのうち1本がはずれてしまいました。まだよくのりが、かわいていなかったのです。ピキは困りました。少年がもどって来ないうちに、なんとかもとのように直しておこうと思いました。力一杯、もち上げようとしましたが、びくともしません。

カット7

ピキは、考えました。自分の体をひのき棒の下へ入れて、押し上げることにしました。成功です。ひのき棒が浮き上がりました。今度は、ヒゴをあしでたぐり寄せ、あしと手でうまくもち上げて、ひのき棒にのりがぬってある箇所へ、押し当てればもとどおりです。

ふいにドアーが開きました。少年が、夕飯をすませて戻ってきたのです。ピキは、羽根がしびれるくらいびっくりしました。そして、叱られるのをかくごして、そのまま、小さくなっていました。でも、少年は叱りません。叱るどころか、作りかけのものをおや指と人さし指でもち上げて、「ピキ、あぶないよ。だいじょうぶだったかい」。そう言うと、急いでまた熱心に作業を続けました。

ピキは、目頭が熱くなるのを感じました。そして、じっとしていられなくなり、思わず少年の肩にとまりました。

 

 

 

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